NEWS

2019/07/09オーケストラ・コンサート(7/13,14) 曲目解説を掲載

いよいよMMCJ2019フィナーレへ!
7/13(土)、14(日)オーケストラ・コンサートの曲目解説を掲載しました。コンサートの前の予習にどうぞご覧ください。

<オーケストラ・コンサート 曲目解説>
7/13(土)紀尾井ホール >公演情報
7/14(日)横浜みなとみらいホール・大ホール >公演情報


■萩森英明:Novelette for Violette -On aTheme by Scarlatti(2017)
→作曲者本人による解説を見る

■ハイドン:交響曲第44番 ホ短調「悲しみ」 Hob.I:44

音楽史においては交響曲や弦楽四重奏曲、ピアノ・ソナタなど、その後のスタンダードとなるべき形式やジャンルが確立した18世紀。そのリーダー的存在として多くの作品を発表したのがフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732年生・1809年没)だ。交響曲だけで100曲以上も残しているが、第44番「悲しみ」は1772年頃、エステルハージ侯爵家の楽長を務めていた時代(30代終盤)に書かれている。

ニックネームとなっている「悲しみ(Mourning)」はハイドン自身の命名ではなく、ホ短調という暗い雰囲気のイメージや、ハイドン自身が「自分の葬儀にはこの曲の第3楽章を演奏して欲しい」と語ったというエピソードからくるものだろう(Mourning には「悲哀、哀悼」といった意味もある)。その第3楽章はホ長調による平和な雰囲気だが、実際に彼の葬儀で演奏されたようである。

第1楽章:ホ短調、ソナタ形式。
第2楽章:「メヌエット」ホ短調、三部形式。
第3楽章:ホ長調、変則的なソナタ形式。
第4楽章:ホ短調、変則的なソナタ形式。

■シェーンベルク:室内交響曲第1番 ホ長調 Op.9

ハイドンの活躍からおよそ100年後の19世紀から20世紀にかけて、オーストリアのウィーンではグスタフ・マーラーや彼に私淑していたアルノルト・シェーンベルク(1874年生・1951年没)らの斬新な音楽が賛否両論を呼んでいた。

美術界でもグスタフ・クリムトやエゴン・シーレ、オスカー・ココシュカらが旋風を巻き起こしていた時代。シェーンベルクは音楽を伝統的な調性というルールから解放し、無調音楽やそれをさらに進化させた12音技法という作曲法を駆使していくのだが、1907年にウィーンで初演された室内交響曲第1番は、まだホ長調という調性を保ちながら新しい響きを追求している意欲的な作品だといえるだろう。楽器編成も、増大し続ける傾向にあった当時のオーケストラに反旗を翻したような小編成であり、個々の楽器の音色が際立つ。初演の際には当然ながら会場中が騒然とし、客席にいたマーラーは怒号の中で決然と拍手をし続けたと伝えられている。

曲はソナタ形式をベースとした全1楽章構成。ホルンによる4度音程を駆け上がるモティーフほか、いくつかのテーマ(主題)を断片的に演奏しながら進む。躍動的なスケルツォ風の部分、緩徐楽章的な部分などを含み、全1楽章でありながらも3~4楽章制の交響曲を凝縮させたような展開だ。ホ長調を基本としながらも楽譜には臨時記号が多く、無調へのステップを確実に歩んでいる作品だといえるだろう。

■シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 Op.43

シェーンベルクらが革新的な音楽を創造していた同じ時代、ベルリンやウィーンに留学していたフィンランドの作曲家、ジャン・シベリウス(1865年生・1957年没)はワーグナーやリヒャルト・シュトラウスらの音楽に多大な影響を受け、1930年頃に作曲のペンを折るまで伝統的な調性音楽を頑固なまでに書き続けた。彼は自らのアイデンティティを祖国であるフィンランドの大地と血に求め、音楽で民族の誇りを表現したのである。

しかし現在でも世界中で演奏される交響曲第2番は、伝統的な交響曲の形式を純粋に追求した、広く愛される大衆的な作品だといえるだろう。フィンランド音楽を代表する一作とまで称されたこの大作は、家族で訪れたイタリア旅行の産物であり、各地の風景やそこで見聞きしたさまざまな芸術(特に、ルネサンス時代の重要な作曲家であるパレストリーナほか、古い時代の音楽や美術・工芸品)、ドン・ファン伝説など、多様な要素によって作り上げられている。もしこの曲を聴いて北欧の自然などを思い浮かべたのであれば、それはシベリウス自身の中に宿る民族性や祖国愛などがにじみ出たからかもしれない。

初演は1902年、シベリウス自身が指揮台に立ち、フィンランドのヘルシンキで行われた。当時まだロシアの傘下にあって独立運動の気運が盛り上がっていたためか、聴衆は自国から生まれたこの交響曲に熱狂し、何度も再演が行われたと伝えられる。

第1楽章:ニ長調、ソナタ形式。穏やかな歩みを連想させる第1主題で幕を開け、遠くから聞こえる笛のような第2主題が加わる。
第2楽章:ニ短調、変則的な二部形式。ドン・ファン伝説における「石の彫像(=死の使い)」にインスピレーションを受けたとされる、交響詩風の音楽。
第3楽章:変ロ長調、変則的な二部形式。短いスケルツォ楽章であり、休みなく第4楽章へと続く。
第4楽章:ニ長調、ソナタ形式。壮大で未来への希望を形にしたような音楽。冒頭の第1主題をはじめ、いくつかの主題が現れては消えながら、それらが集まるようにして力強いフィナーレへと向かっていく。


文:オヤマダアツシ(音楽ライター)

MORECLOSE

Page Top